sho-asado's blogに、「『舞姫』をテクスト分析する」があります。

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について48

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 六、『舞姫』とは 『舞姫』とは一体、何であろうか。すでに述べてきたように、『舞姫』のテーマが「恋愛か功名か」というところにないことはわかって頂けたと思う。 「まことの我」は、エリート官吏の豊太郎をエリス…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について47

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 五、偽りの自己とその結果がもたらしたもの 豊太郎の手記では、「まことの我」が顕れた後に「いままでの我」を「余が幼き頃より長者の敎を守りて、學の道をたどりしも、仕の道をあゆみしも、皆な勇氣ありて能くしたる…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について46

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 四、「人知らぬ恨」と「まことの我」と「一点の彼を憎む心」とは同じもの 冒頭の独白に「人知らぬ恨」が出てくる。その正体がわからなくて、豊太郎は悩まされている。しかし、その正体を知ろうとして、手記を書き始…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について45

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第六章 「舞姫」のテーマについて 一、恋愛か功名か 忍月が定立した「恋愛か功名か」というテーゼは、本当は成立していない。豊太郎は真の愛を知らないのである。したがって、「恋愛」がなくなれば「功名」しか残らな…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について44

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第五章 省筆について 鷗外は豊太郎が手記を書くにあたり、『舞姫』において「いで、その槪略を文に綴りて見む」と意気込んで書いたものである。「槪略」と書いているのだから、無駄な部分は極力削り取られているはず…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について43

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第四章 陪賓及びエリスについて 忍月は『舞姫』評において、エリスについてはかなりがっかりしたと書いている。 「予は客冬「舞姫」と云へる表題を新聞の広告に見て思へらく是れ引手数多の女俳優(例之ばもしや草紙…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について42

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 五、再、気取半之丞に与ふる書 鷗外は「再、気取半之丞に与ふる書」において、「主人公は重要主宰の地位に立つが故に人物若くは身分職業を以て小説の題名となすときは、主人公若くは主人公の身分職業を撰ぶべしと。…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について41

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第三章 『舞姫』という題名について 全体的に「舞姫論争」は、この鷗外が付けた『舞姫』という表題が適切なものかどうか、というやり取りにほぼ終始する。 一、『舞姫』評における忍月の主張 忍月は『舞姫』評の中で…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について40

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 二、四変する豊太郎 忍月にすれば、あっちではこう言っているのに、こっちでは違うことを言っているように思うかも知れないが、鷗外は四変する豊太郎については「気取半之丞に与ふる書」で詳細に説明しているので、こ…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について39

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第二章 主人公について 主人公を論じる時に、通常は一般論から入り、個別の議論になるところだが、舞姫論争では、豊太郎という個人の性格・性質から論じて、やがて一般も論ずるという経過を取っている。 ところが、…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について38

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第二部 「舞姫論争」とは何であったのか。「舞姫論争」が取り残したもの。 第一部では、忍月と鷗外の論争のやり取りをほぼ再現しつつ、適宜講評を加えた。第二部では、この論争にいて考察したところを述べることにす…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について36

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十五章 舞 姫 三 評(続) 人物題にハ主人公を撰ばざる可からざることハ実に言はずとも分りきったる明々白々の理屈なり、相沢氏足下、足下如何に婉曲附会の文字を綴りて舞姫の著者を弁護せんとするも著者の心中豈に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について37

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十六章 再、気取半之丞に与ふる書 其五 其五は、忍月の再評三評四評等を受けてのものである。 其五。足下の所謂再評三評四評等は高架低架幾条の軌路に汽車の競争するを見る如し。憾むべし、僕が待つ所の他の諸妄に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について35

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十四章 再、気取半之丞に与ふる書 其四 其四は長いので、途中で区切ることにする。 (ア)忍月の人物題法について 其四。僕が足下の人物題法をかりに承認して戯に草せし文は、大に足下に誤解せられたるものに似たり…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について34

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十三章 舞 姫 三 評(続) 気取半之丞 予ハ舞姫の文中に於て、無用重複の点を挙示し得ざるに非ず、而るに再評に之を挙示せず只其代りに丹次郎云々の簡単なる文のみを提出したるハ、予が相沢君足下を以ッて訳の分り…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について33

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十二章 再、気取半之丞に与ふる書 其三 その三は、再び、題名について、小説中に人物がでてきた場合、その人物の中でも主人公の名を題名としなければならないとする忍月の論理(忍月は初めは必ずしも、そのように言…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について32

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十一章 舞 姫 三 評 気取半之丞 舞姫エリスは実に識見なき、文盲なる、価値なきの痴女なり、故に予ハ失望したり、失望したるが故に失望したりと云へり、予ハ他よりかく〳〵の囲範内に於て、是れ〳〵だけのことを云…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について31

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十章 舞姫四評 舞 姫 四 評 気取半之丞 世に訳の分らざる人多し、然れども相沢謙吉氏の如きハ鮮矣、又世に不能力者なるものあり一隅を挙ぐるも他の三隅を推悟し得ざるハ勿論挙示したる一隅さへ大半ハ誤解して終に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について30

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (ウ)題名に相応しいもの 題名にからんで、忍月が鰻屋のことを持ち出してきたのだが、鷗外は「主人が鰻屋なるときは蒲焼と題すべし」と言い返している。実は私は、相澤謙吉が天方伯の秘書官であるなら、当時誰がそ…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について29

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第九章 再、気取半之丞に与ふる書 其二……再び表題・題名の話題に入る 其一では、小説の表題・題名をつける時は、主人公をもってつけるべきか否かを論じたが、ここでは「舞姫」という題号そのものについて論じている。…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について28

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第八章 舞姫三評 明治二十三年四月三十日の江湖新聞第六十五號に忍月は「気取半之丞」の名で「舞姫三評」を発表している。この原稿は明治二十三年四月二十八日、國民新聞から「再、気取半之丞に与ふる書」が出る前の…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について27

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (三)ツルゲーネフの例示 鷗外はツルゲーネフを持ち出して、彼に比べてみてもよほど省筆しているではないか、と説いている。 文には許多の句法あり章法あり篇法あり。必ず一をのみ守らむとする人、又人に一のみ守らせ…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について26

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第七章 再、気取半之丞に与ふる書 無用と重複について 其一では、表題・題名に主人公の名を用いなければならないかどうかについて、論じていたが、ここからは突然、話題が変わって、省筆の件が持ち出される。長いので…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について25

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第六章 舞姫再評(二) 舞姫再評(二)とはしたものの、これは「舞姫再評(一)」の続きである。 鷗外が妄説の三番目に挙げたものに対しての反論である。 舞 姫 再 評 気取半之丞 第三妄返上の理由、舞姫中主人公の生…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について24

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第五章 再、気取半之丞に与ふる書 妄の一なり……題名について 忍月の反論を読んで、鷗外は「相澤謙吉」名で「再、気取半之丞に与ふる書」を書く。 論理で返すのではなく、海外の小説の例を挙げて反論している。 なお、…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について23

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (二)第一妄返上の理由 忍月は再び「陪賓を以ッて小説の題号に充つるハ素より不穏当なり」とこの問題を持ち出している。 第一妄返上の理由、陪賓を以ッて小説の題号に充つるハ素より不穏当なり、僕ハもと商賈にして…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について22

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第四章 舞姫再評(一) 忍月は明治二十三年四月二十七日江湖新聞第六十三號において、次の「舞姫再評」を発表している。同名の批評が江湖新聞第六十四號にも載っているが、これは、「舞姫再評」の続きである。本稿は…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について21

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 十、屋上の禽は造語である 最後に「屋上の禽は造語」であることを明かし、最後に鷗外は一緒に酒でも飲んで論ずるのがいいだろう、と締めくくっている。 屋上の禽は造語なること足下の言の如し。之を無理の熟語といは…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について20

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 八、太田は真の愛を知らぬものなり 謫天情仙については、研究者の間でも、さほどの評価を受けていないが、こと『舞姫』の主題にかかわる一言は、重視すべきである。『舞姫』は忍月が規定したような「恋愛か功名か」…