2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について36

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十五章 舞 姫 三 評(続) 人物題にハ主人公を撰ばざる可からざることハ実に言はずとも分りきったる明々白々の理屈なり、相沢氏足下、足下如何に婉曲附会の文字を綴りて舞姫の著者を弁護せんとするも著者の心中豈に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について37

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十六章 再、気取半之丞に与ふる書 其五 其五は、忍月の再評三評四評等を受けてのものである。 其五。足下の所謂再評三評四評等は高架低架幾条の軌路に汽車の競争するを見る如し。憾むべし、僕が待つ所の他の諸妄に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について35

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十四章 再、気取半之丞に与ふる書 其四 其四は長いので、途中で区切ることにする。 (ア)忍月の人物題法について 其四。僕が足下の人物題法をかりに承認して戯に草せし文は、大に足下に誤解せられたるものに似たり…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について34

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十三章 舞 姫 三 評(続) 気取半之丞 予ハ舞姫の文中に於て、無用重複の点を挙示し得ざるに非ず、而るに再評に之を挙示せず只其代りに丹次郎云々の簡単なる文のみを提出したるハ、予が相沢君足下を以ッて訳の分り…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について33

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十二章 再、気取半之丞に与ふる書 其三 その三は、再び、題名について、小説中に人物がでてきた場合、その人物の中でも主人公の名を題名としなければならないとする忍月の論理(忍月は初めは必ずしも、そのように言…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について32

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十一章 舞 姫 三 評 気取半之丞 舞姫エリスは実に識見なき、文盲なる、価値なきの痴女なり、故に予ハ失望したり、失望したるが故に失望したりと云へり、予ハ他よりかく〳〵の囲範内に於て、是れ〳〵だけのことを云…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について31

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第十章 舞姫四評 舞 姫 四 評 気取半之丞 世に訳の分らざる人多し、然れども相沢謙吉氏の如きハ鮮矣、又世に不能力者なるものあり一隅を挙ぐるも他の三隅を推悟し得ざるハ勿論挙示したる一隅さへ大半ハ誤解して終に…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について30

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (ウ)題名に相応しいもの 題名にからんで、忍月が鰻屋のことを持ち出してきたのだが、鷗外は「主人が鰻屋なるときは蒲焼と題すべし」と言い返している。実は私は、相澤謙吉が天方伯の秘書官であるなら、当時誰がそ…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について29

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第九章 再、気取半之丞に与ふる書 其二……再び表題・題名の話題に入る 其一では、小説の表題・題名をつける時は、主人公をもってつけるべきか否かを論じたが、ここでは「舞姫」という題号そのものについて論じている。…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について28

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第八章 舞姫三評 明治二十三年四月三十日の江湖新聞第六十五號に忍月は「気取半之丞」の名で「舞姫三評」を発表している。この原稿は明治二十三年四月二十八日、國民新聞から「再、気取半之丞に与ふる書」が出る前の…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について27

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (三)ツルゲーネフの例示 鷗外はツルゲーネフを持ち出して、彼に比べてみてもよほど省筆しているではないか、と説いている。 文には許多の句法あり章法あり篇法あり。必ず一をのみ守らむとする人、又人に一のみ守らせ…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について26

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第七章 再、気取半之丞に与ふる書 無用と重複について 其一では、表題・題名に主人公の名を用いなければならないかどうかについて、論じていたが、ここからは突然、話題が変わって、省筆の件が持ち出される。長いので…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について25

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第六章 舞姫再評(二) 舞姫再評(二)とはしたものの、これは「舞姫再評(一)」の続きである。 鷗外が妄説の三番目に挙げたものに対しての反論である。 舞 姫 再 評 気取半之丞 第三妄返上の理由、舞姫中主人公の生…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について24

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第五章 再、気取半之丞に与ふる書 妄の一なり……題名について 忍月の反論を読んで、鷗外は「相澤謙吉」名で「再、気取半之丞に与ふる書」を書く。 論理で返すのではなく、海外の小説の例を挙げて反論している。 なお、…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について23

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (二)第一妄返上の理由 忍月は再び「陪賓を以ッて小説の題号に充つるハ素より不穏当なり」とこの問題を持ち出している。 第一妄返上の理由、陪賓を以ッて小説の題号に充つるハ素より不穏当なり、僕ハもと商賈にして…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について22

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第四章 舞姫再評(一) 忍月は明治二十三年四月二十七日江湖新聞第六十三號において、次の「舞姫再評」を発表している。同名の批評が江湖新聞第六十四號にも載っているが、これは、「舞姫再評」の続きである。本稿は…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について21

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 十、屋上の禽は造語である 最後に「屋上の禽は造語」であることを明かし、最後に鷗外は一緒に酒でも飲んで論ずるのがいいだろう、と締めくくっている。 屋上の禽は造語なること足下の言の如し。之を無理の熟語といは…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について20

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 八、太田は真の愛を知らぬものなり 謫天情仙については、研究者の間でも、さほどの評価を受けていないが、こと『舞姫』の主題にかかわる一言は、重視すべきである。『舞姫』は忍月が規定したような「恋愛か功名か」…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について19

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 七、「豊太郎の人物と境遇と行為は支離滅裂である」ということに対する反論 鷗外も忍月も、豊太郎が「ユングフロイリヒカイト(処女性)」を尊重しているのは、同じである。 問題は、エリスがパラノイアに罹った後に、…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について18

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 六、主人公の性質について 小説の主人公がいかなる性質を持っていたとしても、その性質をもって作品を書くならば、どのような性質の主人公をもってしても良いのではないか。ここでは、シェイクスピアのハムレットと…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について17

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (三)友に対して否とはえ対へぬが常なり 『舞姫』を読んで、読者(読み手)が途惑うのは、次の箇所ではなかろうか。 「わが弱き心には思ひ定めんよしなかりしが、姑(しばら)く友の言に從ひて、この情綠を斷たんと約…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について16

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について (二)四変する豊太郎の心情 『舞姫』では、豊太郎の心を描くのに、その順番通りには叙述していない。ある事柄が述べられれば、その時の豊太郎の心情を描いているのである。従って、事柄が順番通りなら、わかりやす…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について15

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 五、太田豊太郎の性格・性質についての反論 豊太郎の性格・性質についての反論部分は、長くなるので区切って説明する。 (一)われとわが心さへ変り易きをも悟り得たり 『舞姫』本篇の主題の基調となっているものに、…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について14

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 四、六十余行を無用としたことに対する反論 題に対して、鷗外はさんざん批判しておきながら、矛を収める。 然りと雖是等は皆鷗外漁史が杜撰なる命題より起りしことなれば、僕は足下に向ひて深く責めむと欲せず。 【意…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について13

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 三、舞姫に対する反論 『舞姫』についての批判は、鷗外はよほど腹にすえかねたようで、再び話題にしている。 足下は又舞姫の文盲痴騃にして、識見なく志操なきを見て望を失ひたり。敢て問ふ小説の表題に取られし人物…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について12

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 二.表題に対する反論 その後、忍月の評を次のように引用して「妄なるかな評」と酷評している(ほぼ、引用なので意訳は省く)。 足下のいはく。予は客冬舞姫といへる表題を新聞の広告に見ておもへらく。是れ引手あまた…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について11

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 第三章 気取半之丞に与ふる書(相澤謙吉)……忍月の『舞姫』評に対する鷗外の反論 忍月の「舞姫」については、鷗外は相澤謙吉の名を借りて「気取半之丞に与ふる書」を書いている。 一、自己紹介 鷗外は忍月が作中の人物…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について10

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 九.結果的に鷗外を評価している 批判はしてきたものの、忍月は最大級の褒め言葉で『舞姫』を締めくくっている。 依田学海先生国民之友の附録を批して曰く「舞姫」は残刻に終り「拈華微笑」は失望に終り「破魔弓」は…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について9

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 六.『舞姫』という題名について ヒロインに続き、やり玉に挙げているのは『舞姫』というタイトルである。 而して本篇の主とする所は太田の懺悔に在りて舞姫は実に此懺悔によりて生じたる陪賓なり。然るに本篇題して…

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について8

『舞姫』‐いわゆる「舞姫論争」について 四.主人公の履歴 忍月は主人公がベルリンに留学して一乙女エリスと出会ってからのことが、物語本筋であるから、主人公の生い立ちからベルリンに洋行するようになる経緯は、ほとんど無用であると考えている。 従って…