2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『舞姫』第二論 「まことの我」論17

『舞姫』第二論 「まことの我」論 十二、ホテル・カイゼルホオフ 十一月四日の日曜日に呼び出されて、天方伯に会いに行くと、ある文書を渡されて「獨逸語にて記せる文書の急を要するを飜譯せよ」と言われる(この日、豊太郎は相澤と昼餉をともにし、前記十一…

『舞姫』第二論 「まことの我」論16

『舞姫』第二論 「まことの我」論 (ア)ドイツ語の語学力を活かして、天方伯に信用されること。 (イ)エリスと別れること。 (ア)については、受け入れることに豊太郎に異論はなかった。 問題は、(イ)である。何故、相澤がエリスと別れることを要求しているのか…

『舞姫』第二論 「まことの我」論15

『舞姫』第二論 「まことの我」論 十、エリスの家での生活 豊太郎はエリスの家に寄寓するにあたり、免官・免職になったことを、エリスに言われてエリスの母には告げていない。従って、平日であれば朝食が済んだら、出勤しなければならない。しかし、免官・免…

『舞姫』第二論 「まことの我」論14

『舞姫』第二論 「まことの我」論 八、豊太郎の免官・免職 豊太郎とエリスの交際は、同郷人に知られ、東京にいる官長のもとに知らされる。「まことの我」が現れてからの豊太郎を憎々しく思っていた官長は、格好の口実を得られたことで、公使を通じて、直ちに…

『舞姫』第二論 「まことの我」論13

『舞姫』第二論 「まことの我」論 七、エリスの登場 エリスが現れることで「いままでの我」と「まことの我」の関係も微妙になる。エリスという少女に対しては融和的なのである。 まずは物語を追うところから始めよう。 同郷人たちとの間でトラブルを抱えた豊…

『舞姫』第二論 「まことの我」論12

『舞姫』第二論 「まことの我」論 五、同郷人との面白からぬ関係 「いままでの我」も同郷人とは深く関わりを持っていなかったであろう。しかし、何か不快なことを同郷人が言ってきても、柳に風の如く受け流していたと思われる。だが、「まことの我」が現れて…

『舞姫』第二論 「まことの我」論12

『舞姫』第二論 「まことの我」論 三、「まことの我」の主張 まず「まことの我」の主張を整理する。 「まことの我」の主要な主張は、「いままでの我」が、(ア)から(エ)まで、「たゞ所動的、器械的の人物になりて自ら悟らざりし」に尽きる。 (ア)父の遺言を守…

『舞姫』第二論 「まことの我」論11

『舞姫』第二論 「まことの我」論 二、「まことの我」の現れ方 「まことの我」の現れ方は、原文では次のように一気に書かれている。 かくて三年ばかりは夢の如くにたちしが、時來れば包みても包みがたきは人の好尚なるらむ、余は父の遺言を守り、母の敎に從…

『舞姫』第二論 「まことの我」論10

『舞姫』第二論 「まことの我」論 第六章 「まことの我」 一、前提 「まことの我」が現れたのは、私は明治廿年の一、二月だと思っている。おそくとも三月の初旬までである。原文ではこう書かれている。「かくて三年ばかりは夢の如くにたちしが、時來れば包み…

『舞姫』第二論 「まことの我」論9

『舞姫』第二論 「まことの我」論 第五章 手記の書き出し部分と石橋忍月 手記は次のように書き出される。「余は幼き比(ころ)より嚴しき庭の訓を受けし甲斐に、父をば早く喪ひつれど、學問の荒み衰ふることなく、舊藩の學館にありし日も、東京に出でゝ豫備黌(…

『舞姫』第二論 「まことの我」論8

『舞姫』第二論 「まことの我」論 第四章 「手記」の構成 手記の細部を詳述する前に、手記の構成について述べる。 「余」が手記を書き始めるに際して、「人知らぬ恨」を消す方法として、「詩に詠じ歌によめる後は心地すが〳〵しくもなりなむ」と語っているよ…

『舞姫』第二論 「まことの我」論7

『舞姫』第二論 「まことの我」論 二つめは、手記を書く「現在」と、手記内で物語られる物語内時間の二つの「時間」の間を、行き交うように手記が進行するであろう、ということである。 「五年前の事なりしが」で語られる手記は、少なくとも「現在」と「物語…

『舞姫』第二論 「まことの我」論6

『舞姫』第二論 「まことの我」論 しかし、一方で「現在」の「余」は、どうなのか。つまり、今の「余」は何者で何故、この「セイゴンの港」にいるのかと「読者」は疑問を持つ。 当然、初出においては、「余」は「現在」の自分の状況を明かす。 「我がかへる…

『舞姫』第二論 「まことの我」論5

『舞姫』第二論 「まことの我」論 第二章 『舞姫』の構造 本論に入る前に『舞姫』の構造について、確認することにする。 『舞姫』は「余」と示される一人称の人物が、「現在」「セイゴンの港まで來」ていて、その停泊中の船内の談話室らしき所に一人だけ残っ…

『舞姫』第二論 「まことの我」論4

『舞姫』第二論 「まことの我」論 三 制度内自我 もう一つ、「まことの我」を考察するにあたり、私は「制度内自我*1」という新たな概念をもって説明しようと思っている。また、「舞姫」を隈無く解釈するために、全編に亘ってのテクスト分析を行う予定であっ…

『舞姫』第二論 「まことの我」論3

『舞姫』第二論 「まことの我」論 一 「まことの我」を「真」とするもの 言うまでもないことだが、長らく「まことの我」を「真」とする考え方が主流であった。「まことの我」を「真」とする以上、この言葉には実体が伴うものと考えられてきた。その実体とは…

『舞姫』第二論 「まことの我」論2

『舞姫』第二論 「まことの我」論 第一章 「まことの我」に対する考え方 本論を進めるにあたり、「まことの我」について考えてみることから始めたい。 最も初期の『舞姫』評においては、「まことの我」を「被働性ヲ呈ス」る太田豊太郎の一種の性質として、固…

『舞姫』第二論 「まことの我」論1

『舞姫』第二論 「まことの我」論 『舞姫』‐「まことの我」について はじめに 先に『『舞姫』‐主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて』を発表する機会を得たが、豊太郎の言を借りれば「世の人にもてはやされしかど、今日になりておもへば、穉(をさな)き…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 60

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 参考文献一覧(◎の書物等にて確認、順不同) ◎森林太郎『舞姫』(『鷗外全集 第一巻』所収、岩波書店、昭和四十六年十一月二十二日発行) ○森林太郎『舞姫』初出(『國民之友』第六十九號明治二十三年一…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 59

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料七・「明治廿一年の冬」のもう一つの可能性】 私は、「明治廿一年の冬は來にけり」の「明治廿一年の冬」とは、旧暦の明治廿一年の十月一日であり、その日を新暦でみれば十一月四日の日曜日と考えて…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 58

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料六・真堂彬「「明治廿一年の冬は來にけり」と略本暦について」(『エリスの物語 付森鷗外『舞姫』現代語訳』所収、ミヤオビパブリッシング、二〇一六年五月十六日第1刷発行)】 森鷗外の『舞姫』…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 57

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 三、エリスの妊娠カレンダーについて これからは「エリスの妊娠カレンダー」について、ご説明します。 さきほど話したように太田の手記は、ドイツ・ベルリンを出立したところで終わっています。しかし、…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 56

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (四)エリスの妊娠中期二 太田豊太郎がロシア・ペエテルブルクからベルリンに帰ってきたのは、一八八九年の一月一日です。妊娠カレンダーを見ていただければわかるように、妊娠中期のほんとうに中頃です…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 55

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (三)エリスの妊娠中期一 太田豊太郎がロシア・ペエテルブルクに旅立って、一人屋根裏部屋に残されたエリスは、除籍されているので舞台のことを考えるはずもなく、太田が居た時のように「小き鐵爐の畔に…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 54

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (二)エリスの妊娠の確定 それから一月(ひとつき)ばかりの間、太田豊太郎はホテル・カイゼルホオフに通います。エリスは悪阻のこともあり、また妊娠しているのであれば大事な時期ですから、舞台を休むこ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 53

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 二、妊娠の経過 エリスの妊娠の過程について説明します。それにあたって、皆さんにわかりやすいように私案としての「エリスの妊娠カレンダー」を作りましたので、お手元の資料をご覧になりながらお聴きく…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 52

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料五・中島由嘉里「エリスの妊娠について」(『明慶大学文学部紀要 第三八六号八月』)】 森鷗外の「舞姫」についての論文に、従来からエリスに関する論文が無かったわけではありません*1が、それは…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて51

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料四・小泉浩一郎、補注】 小泉浩一郎氏の以下の文には、補注であるがために、「(三頁注四)」「(五頁六行)」のように頁番号・行番号や校注番号が付されているが、そのまま提示する。 二 五年前の…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて50

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料三・三好行雄、補注二、昭和四十一年一月二十日初版発行『近代文学注釈大系 森鷗外』所収、有精堂出版、昭和四十九年九月三十日初版発行『日本近代文学大系 第11巻 森鷗外集Ⅰ』四一六頁、角川書店…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 49

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 【資料二・長谷川泉『舞姫』太田豊太郎の年譜についての変遷】 ・A案 ①初出『国文学 解釈と鑑賞』昭和三十二年八月、九月、十一月、十二月、昭和三十三年一月~三月 「舞姫」 ②『近代名作鑑賞』至文堂 初…