2018-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 47

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑭ブリンヂイシイ港から出航する。 しかし、本当に「我と我が心」の物語は終わるはずもなく、「我が心」の消息は伝えられることになる。それは、「人知らぬ恨」という言葉に代わり、「此恨は初め一抹の雲…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて46

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑬豊太郎、日本に帰るべくベルリンを発つ。 「人事を知る程になりしは數週の後なりき」から「余が病は全く癒えぬ」に至る前三段落には、「此恩人は彼を精神的に殺しゝなり」を除けば豊太郎の心の風景は全…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて45

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑫豊太郎、人事不省に陥る。 豊太郎は明治二十二年の元旦に帰ってきた二、三日後の「或る日の夕暮使して招かれ」ることになる。夕方まで家にいたということは、使いが来なければその日も家にいるつもりで…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 44

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑪明治二十二年の元旦とその二、三日後のこと。 明治二十二年の元旦に、突然帰ってきた豊太郎にエリスは飛びつくようにして、その「喜びの淚」を「はら〳〵と肩の上に落」とすのであるが、これは豊太郎に…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 43

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑩天方伯とロシア・ペエテルブルクに向かう。 豊太郎は翌朝早くにエリスを母に付けて知人のもとに出しやると、旅行の支度を整えて、玄関を鎖で閉ざし、その鍵を住居の入り口の靴屋の主人に預けて出かける…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて42

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑨「カイゼルホオフ」へ通ふこと、一月ばかり。 「飜譯は一夜になし果てつ」は天方伯の信用を得ようとする豊太郎の意気込みの表れであるが、翌日に「「カイゼルホオフ」へ通ふこと」の理由にもなる。おそ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて41

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (エ)相澤謙吉と会う。 「室に入りて相對して見れば、形こそ舊に比ぶれば肥えて逞ましくなりたれ、依然たる快活の氣象、我失行をもさまで意に介せざりきと見ゆ。」 「形こそ舊に比ぶれば肥えて逞ましく…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて40

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (ウ)「カイゼルホオフ」に着く。 ホテル・カイゼルホオフに着いた豊太郎は「門(かど)者(もり)に秘書官相澤が室の番號を問ひ」、「久しく踏み慣れぬ大理石の階を登」る。そして「中央の柱に「プリユツシ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 39

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (イ)エリスは豊太郎を送り出す。 「かはゆき獨り子を出し遣る母もかくは心を用ゐじ。」という程に、エリスは心を尽くして、大臣に会いにカイゼルホオフに向かおうとする豊太郎の身支度をする。 「丁寧…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて38

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 「明治廿一年の冬」のこの日のことについては、以下に順を追って詳述する。 (ア)相澤からの手紙が届く。 その日は日曜日*1だったので、豊太郎はキヨオニヒ街の休憩所に行くこともなく(日曜日ゆえにそ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて37

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑧明治廿一年の冬 さて、いよいよ「明治廿一年の冬は來にけり」について記そうと思う。 ここに「冬」と書かれているが、これは小泉浩一郎氏の『舞姫』校注にも示されているように、旧暦の十月から十二月を…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 36

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 〈附記〉⑦ 中井義幸氏の「鷗外留学始末」によれば、森林太郎は石黒忠悳にドイツ陸軍の衛生制度を調べるためとして送り出されたものの、本当は兵食研究をやらせるためだったらしい。従って、ベルリンに着…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて35

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (オ)エリスとの同居 豊太郎がエリスと同居することになるのは、免官が言い渡されてから程なくのことであろう。 豊太郎とエリスは「いつよりとはなしに、有るか無きかの收入を合せて*1、憂きがなかにも…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて34

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (ウ)エリスとの交際 「嗚呼、何等の惡因ぞ」で書き出される一段から始まるエリスとの交際は、「餘所目に見るより淸白」であり、「師弟の交り」のようなものだった。 豊太郎が貸し与える本で「漸く趣味…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて33

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて (イ)エリスとの出会い 豊太郎がクロステル巷に、最初に足を踏み入れたのはいつであるかはわからない。しかし、「此三百年前の遺跡を望む每に、心の恍惚となりて暫し佇みしこと幾度なるを知らず」となる…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて32

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑦「今二十五歳になりて」 豊太郎が洋行して、三年ばかり経った時、「まことの我」があらわれる。豊太郎の年立てでは、ここにいくつかの場面が登場するので、(ア)から(カ)まで、分けて記述することに…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて31

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑥ベルリンへの洋行 豊太郎は三年ばかりの間、たゆみなく働き、官長の覚えもめでたく、念願だった洋行が明治十七年にかなう。この間、ドイツ語・フランス語の勉強も怠りなく続けていたのであろう。「普(プ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて30

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑤東京大学法学部卒業。某省に出仕する。 明治十四年、満年齢十九歳という異例の若さで、豊太郎は東京大学法学部を首席で卒業する。そして某省に入省する。東京大学の卒業を七月とすれば、豊太郎が出仕す…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて29

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ④東京大学法学部入学 明治十年、豊太郎十五歳の時、東京大学法学部に入学し、常に首席を保つ。 故郷にいる母からすれば、一人っ子の我が息子を東京たる大都に送り出した時からその力を借りて、世の中を渡…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて28

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 〈附記二〉③ 前項の附記でも書いたが、明治五(一八七二)年に、森林太郎は父と共に上京する。これは廃藩置県により、父静男が藩医(森家は代々、津和野藩の藩医の職にあった)の職を失ったためであり、…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて27

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて では「豫備黌」とは何であろう。これを述べるには、少々長くなるので、「〈附記一③)」で「豫備黌」の問題を扱い、従前の附記は「〈附記二〉③」とする。 〈附記一〉③ 「豫備黌」とは、一般的に言えば、上…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて26

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ③東京に出でゝ豫備黌に通ひしとき 「東京に出でゝ豫備黌に通ひしとき」とは、いったいいつの〈時〉のことであろうか。『舞姫』の校注者・脚注者は、これについて考えたことがあるのだろうか。 ②で「舊藩…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて25

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ②舊藩の學館にありし日 「舊藩の學館にありし日も」という記述から、太田家は地方のどこかの藩の旧士族階級であったことがうかがえる。いつから旧藩の学館に通っていたかは不明であるが、父を早くに喪っ…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて24

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ①豊太郎の生まれた年 文久二年(一八六二年)、豊太郎は太田家の長男として生まれる*1。明治十七年、豊太郎二十二歳でベルリンに洋行する際の記述では、豊太郎の母は、その時「五十を越えし」となってい…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて23

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 五、太田豊太郎の年譜と「豫備黌」問題 『舞姫』における豊太郎の年齢が満年齢とすれば、豊太郎の年譜は次のようになる。 年号 西暦 満年齢 ○豊太郎の生まれた年 文久二年 一八六二年 〇歳 ○舊藩の學館に…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて22

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ⑥大学卒業年齢の客観的意味 豊太郎の大学卒業年齢に対する作者の思い(主観的意味)は、前項の通りであるが、ここでは客観的な意味について考えることにする。 「十九の歳には學士の稱を受けて、大學の立…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて21

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ④エリスの年齢 『舞姫』の主たる舞台は、ベルリンである(日本ではないということ)。これと年齢の数え方が関連していると私は考えている。それは『舞姫』の中に出てくる年齢が、豊太郎に限らないからで…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて20

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ③満年齢の求め方 前述したように、明治六年二月五日の「太政官布告第三十六号(年齡計算方ヲ定ム)」以降、満年齢は一般には浸透していなかったものの、公式においては使用されていたわけであるから、満…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて19

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて 明治六年二月五日の「太政官布告第三十六号(年齡計算方ヲ定ム)」を受けて、公式的には満年齢を使用することとなった。 「太政官布告第三十六号(年齡計算方ヲ定ム)」は、次のようなものである。 自今…

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて18

『舞姫』|主人公・太田豊太郎の年齢と年立てについて ①旧暦から新暦への改暦 「満年齢」が使われるようになることを説明する前に、まず明治の改暦について説明することにする。 明治維新が起き、明治になってもしばらくの間、暦といえば天保暦を使用していた…